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アフターコロナの焼き芋フェスを考える

さつまいもアンバサダー協会 焼き芋担当理事の天谷です。
生命の危険を感じるレベルの猛暑が続いていますが、暦のうえではすでに秋。もうまもなくしたら、ことし植えたさつまいもの収穫が始まり、焼き芋シーズンが幕を開けます。

しかしながら、このコラムを書いている2020年8月現在、世界中を襲うコロナの猛威は衰えを見せません。夏の野外フェスはもちろん、秋以降に予定されていた大きな野外イベントも続々中止が決定しており、イベント業界の片隅で仕事をしている自分にとっても引き続き厳しい状況が続いています。

毎年1月末に東京・品川シーズンテラスで開催されている「品川やきいもテラス」、またことし2月に埼玉県・さいたまスーパーアリーナで開催された「さつまいも博」など、焼き芋をテーマにしたフードフェスイベントのムーブメントが各地で起こっています。しかし、コロナの感染要素である三密(密閉・密集・密接)を防ぐ観点から考えると、不特定多数の人々が一箇所に集まってワイワイと行うかたちでのフードフェスの開催は当面難しいのかもしれません。

しかし、季節はめぐります。さつまいもは毎年育ちますし、この状況下でも全国の焼き芋屋さんは安全対策に十分な注意をはらい、知恵や工夫を尽くしておいしい焼き芋を届け続けています。

せっかく盛り上がりだした焼き芋フェスのムーブメントを止めることなく、かつ安全に、多くの方に焼き芋を召し上がっていただく方法はないか、見たことのない、未来系の焼き芋を発見する「焼き芋フェス」の面白さを発信し続けることが出来ないものか──。あらたな形をいろいろと考えてみています。

「無観客焼き芋フェス」という方法

サザンオールスターズが横浜アリーナで無観客ライブ配信を行い、本来の会場キャパシティを大幅に上回る人々がネットを通じて「参加」したことがニュースとなりました。

たとえば各地の焼き芋屋さんの店先をライブカメラで結び、ひとつの画面上で見せることによって、各地の焼き芋屋さんが集って、さまざまな焼き芋が出来上がる、あの会場の「熱気」を再現できないかと考えています。

店先からの中継とすれば、これまでの大規模な屋外イベントに必要であった電源やガスも必要ありません。各店舗それぞれが必要な在庫の範囲内で参加できるようにすれば、お客さんが殺到してキャパオーバーとなる心配もなく、双方にとってよい条件で「焼き芋フェス」が開催できるのではないかと考えています。

販売については、いわゆるライブコマースの形式をとります。配信画面に販売機能をもたせ、画面のなかで焼いている焼き芋を注文できるようにするのです。
真空パックや発送の体制を持っているお店は、そのまま通販にて販売。そうでないお店については、人数枠や時間を限定した「予約」を受け付けることで、三密を避けた状態で店頭に行き、購入できるようにすれば、感染や出店に関する在庫的なリスクも最小限に減らせるのではないでしょうか。

これまで、各フェスのサイトなどで行われてきた、お店や焼き芋の魅力が伝わる取材コンテンツを同時に提供したり、フェスを経由してのみ購入できる「裏メニュー」が生まれれば、「焼き芋フェスでしか食べられない」メニューに出会う楽しみもそのままに味わっていただくことができます。

行けるかも。オンライン焼き芋フェス。
いますごく真剣に考えています。

オンラインなら、出店のハードルも減るかもしれない。

これまで焼き芋フェスを運営してきたなかで、ずっと心苦しく感じていたことがあります。
それは、「これまで少なくない数の出店をお断りしてきた」という経緯です。

数万人にのぼるお客様が訪れてきた焼き芋フェスにおいて、その生命線とされてきたのが「供給スピード」でした。

焼き芋は、じっくりとおいしくなる食べ物です。とくにつぼ焼き芋などは、炭によってゆっくり焼き上げる関係上、1ローテーションに最低でも2時間はかかります。同時に風による温度低下の影響を受けやすく、野外ではさらに時間がかかってしまうことがどうしても避けられないという事情がありました。

せっかく美味しい焼き芋が出来上がっても、それを実際に手にするまでに1〜2時間もかかってしまうことも珍しくなく・・・。それを少しでも回避するため、フェスの裏側では参加店舗のみなさんが夜を徹して焼き芋を仕込んでいたのです。しかし、なかなかこの問題は解決できず、毎年心苦しい思いを抱えていました。

私が立ち上げに関わった焼き芋フェスでは、出店条件として「1時間に100本以上提供できること」を掲げていました。ただでさえ準備の大変なお店のみなさんに、軽々しく言えるような数字ではありません。しかし、この基準よりも本数の出せないお店はこれまでのフェスイベントではお客様をさばききれず、双方にとって不幸な結果となってしまっていたのです。

焼き芋フェスが多くのみなさまから人気をいただき、たくさんの方に単一の会場へお越しいただくという形式を続ける以上、この問題に悩み続けなければいけないのか。そう感じていたのです。

しかし、そんなフェスの「常識」が、コロナによってガラガラと崩れました。
「すぐに焼き芋をお出ししなければいけない」という時間的な制約が、オンラインイベント化によって無くなったのです。

同時提供という壁が崩れれば、これまで出店が難しかったような小規模のお店や、新たに参入された個人の方のお店なども、それぞれのキャパシティに応じて柔軟にご参加いただけるようになるのではないか。

お客様に寒い屋外でずっと行列にお並びいただかざるを得なかった状況をなくし、これまでお仕事の都合でフェスに時間的に参加が難しかった方も、同じように、それぞれの方々のご都合にあわせて、自由に焼き芋を楽しんでいただけるのではないか。

できなくなったことも多いが、できるようになることも多いと思う。

焼き芋フェスの魅力は、焼き芋の味ももちろんですが、いちばんは「発見のよろこび」ではないかと考えています。
フェスにお越しいただいたお客様のSNS投稿を見ていても「こんな焼き芋があった!おいしい!」というメッセージを写真つきで発信されている方がとても多いイメージがあります。
焼き芋フェスの会場では、お越しいただいたみなさんが「焼き芋特派員」になるのです。

このコロナにおいて物理的な制約は大きく増えましたが、同時に空間的・時間的な制約はどんどん無くなってきているように感じます。できなくなったことも多いけれど、今年以降はこれまでにできなかった、新たな「焼き芋フェス」を開催できるのではないか。そう考えています。

今年もたくさんの笑顔が、「焼き芋フェス」から生まれますように。

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