前回の記事に引き続き、いも焼酎についてです。
いも焼酎の聖地と言えば、九州。その中でも、全国のいも焼酎生産、合わせて9割以上を占める鹿児島と宮崎のいも焼酎の現状ついてご紹介します。
鹿児島で、お酒と言えばいも焼酎を指すほど、日常的に飲まれているのだそう。一日の終わりに鹿児島県民を癒すのは、他でもなくいも焼酎。鹿児島で晩酌は、「だれやめ(だいやめ)」と言い、焼酎を飲んで、だれ(疲れ)をやめる(とめる)という意味です。そんな文化があるほど、なぜ鹿児島では、いも焼酎が県民の生活に浸透しているのでしょうか?
1705年、江戸時代に前田利右衛門がさつまいもを琉球(沖縄)から鹿児島へ持ち込んだことがきっかけで、桜島の火山灰からなる土地でもよく育つ作物として、普及しました。そこから、鹿児島でさつまいもが生産されるようになります。さつまいもが伝来する以前から、九州では焼酎がつくられていたことが明らかであることから、いも焼酎の歴史は、250~300年あるといわれています。歴史の長さが、鹿児島の「だれやめ」文化を形成してきたといっても過言ではないでしょう。
そんな鹿児島が、いも焼酎界を牛耳っているというイメージを持たれると思いますが、実は宮崎も負けてはいません。
全国におけるいも焼酎課税移出数量比率【図1】を見ると、平成4年はその八割が鹿児島、残り二割が宮崎です。9年には、当時の増税によって100以上ある鹿児島の焼酎蔵元は半減するといわれていましたが、予想をくつがえし鹿児島の焼酎産業は発展を続けました。しかし、鹿児島において20年に焼酎に使用する米麹が問題視されたことを含む、一連の事故米不正転売事件の影響によりその割合は逆転しました。その後29年には、宮崎が全体の55%、鹿児島が40%という比率となっています。原料となるさつまいもの全国出荷比率(26年)を取ってみても、宮崎が62%という割合を占めており、宮崎がいも焼酎生産量を伸ばしています。
【図1】
平成(年度) | 4 | 26 | 29 |
---|---|---|---|
鹿児島 | 80 | 20 | 40 |
宮崎 | 20 | 80 | 55 |
(%)
それでは、宮崎のいも焼酎にはどのような特徴があるのでしょうか。一般的に、焼酎のアルコール度数は25度。一方で、鹿児島のいも焼酎が25度に対し、宮崎はそれより低い20度が主流です。それは、戦後に密造酒造が出回った時、それに対抗するために、税額の低い20度にすることによって、より安い値段で販売していた名残であるようです。いつのまにか、そのまま宮崎では20度の焼酎が定着するようになりました。20度の宮崎のいも焼酎は、やさしい口当たりですっきりとしたものが多く、飲みやすいのが特徴です。
隣り合う県でもこんなちがいがあるとは、面白いですね。いも焼酎から生まれた文化にも着目していきたいと思い、筆者も鹿児島の「だれやめ」を今晩してみたいと思います。
出典:
南里伸子『ごっくん、極楽 うまか芋焼酎のすすめ 選び方・飲り方大全』学習研究社、2006年
高峰和則「鹿児島県におけるいも焼酎生産の現状と展望」『いも類振興情報』、141号、いも類振会、2019年、2-3頁
日本酒類研究会『知識ゼロからの芋焼酎入門』幻冬舎、2005年